みなさんこんにちは。
 最近、天気予報で傘マークが
 目立つようになってきました。
 梅雨の季節がすぐそこまで来ているようです。
 そのせいもあるのでしょうか。
 いえ、できればそのせいだと思いたいのですが。
 部室の空気もジメジメというか、
 どんよりというか、なんというか、その……
「交流戦なんて廃止よ廃止!
 パパに頼んで取り止めにしてもらうんだからーっ!!」
 嫌な予感はしていましたが、
 これは入部至上最悪の空気です。
 交流戦がこんなにツラいものだったなんて……。
「あの、どうしてこんなに差が開くんでしょうか……」
「理由はいろいろあるって言われてるんだよね。
 DH制のこととか、移動距離のこととか」
「DH……あ、指名打者のことですか?」
「お、それは知ってるん?」
「はい、高校野球では採用されていませんが、
 ルールブックには書いてあったので」
 投手の代わりに一人の野手が打席に立つ、
 というDHルールをパリーグが採用していると、
 私は交流戦で学びました。
「そういえば、今日つばめは……?」
「休みや。原因不明の高熱に浮かされとるらしいで……」
「あはは……」
「相変わらず、難儀な体質ね……」
 東京ヤクルトスワローズ、読売ジャイアンツ、
 そして横浜ベイスターズと、先輩方の好きなチームは
 事前に聞いていたとおり、苦戦しているみたいです。
「こないだの試合、最終回に追いついたのは
 ええ感じやったみたいやけどなぁ」
 唯一、虎々奈先輩の阪神タイガースは、
 ここまで4勝2敗と勝ち越しを決めていますが、
 他の皆さんに配慮しているのか、
 いつもより大人しい気がします。
 他の皆さんに、というよりは……
「ねえ浜愛、プロ野球の連敗記録っていくつなの?」
「えっと、ロッテの18とかじゃなかったかな」
「そう……じゃあ、折り返し地点は過ぎたってことね……」
 美羽璃先輩の応援する読売ジャイアンツは、
 泥沼の10連敗中なのです。
 さすがの虎々奈先輩も、それをネタにはしないようです。
「でも、今日の先発は菅野やろ?
 さすがに止まるんちゃうかなー」
 それどころか、むしろ励ましています。
 なんだか貴重なものを見ているような気になります。
「……私を気遣ってくれるなんて珍しいじゃない」
「いや、ホンマはいつもどーりに
 からかってやろう思てたんやで?
 けど、美羽璃が想像以上に落ち込んでるもんやから、
 こらマズいかなーて……」
「…………」
「どしたん?」
「虎々奈も、人間らしいところがあるのね」
「どーいう意味やねん!?」
「確かに、連敗はつらいけど……でもちょっとだけ、
 嬉しい気持ちもあるから複雑なのよね」
「嬉しい気持ち、ですか?」
 応援してるチームが連敗しているのに、
 嬉しいというのはどういう事でしょう。
「私は坂本様が大好きで、坂本様さえ良ければ
 チーム事情は気にならない性格だって思ってたんだけど……
 でも、連敗関係のニュースを見るたびに
 気分が落ち込むってことは、なんだかんだで、
 チームも好きなんだって気付けたというか……」
「美羽璃先輩……」
「それはそうよね、だって、大好きな坂本様が勝つために
 頑張っているチームが連敗しているんだものね」
 笑いながら話してはいますが、
 それでも元気がないのは事実です。
 私が男の人だったら、ぎゅっと
 抱きしめてあげたくなるような状態です。
 いえ、むしろ男の人が女の人を抱きしめたら
 いろいろと複雑なことになりかねません。
 ということは……
「えっ……?」
 先輩をぎゅっとするのは、私の役目です。
「ちょっ、ちょっと、遥ちゃん……?」
「お、なんやなんや……?」
「この前の筒香と石川みたい」
「美羽璃先輩、大丈夫です。明けない夜はないように、
 止まらない連敗もまたないのです。
 今日こそ勝てますよ! ファイトです!」
「あ、ありがとう……」
 美羽璃先輩を励ますことはできたかもしれませんが、
 部室の空気が重いことに変わりはありません。
 ここは、私がなんとかしなければいけないのです!
「私、モノマネします!」
「へ? モノマネ?」
「ええと……三塁線ギリギリに転がされた
 送りバントの行方を限界まで見守った結果、
 結局フェアだったので急いで拾う高校球児をやります!」
「それ高校球児じゃなくてもええやろ!」
 親戚の前でしか披露したことがないのですが、
 今は状況が状況です。少しでも、
 この場の雰囲気が明るくなれば……!
「どうでしょうか!」
 ……あ、あれ。
 みなさん、時間が止まったかのように
 呆然としています。
 ひょっとして私、やってしまったのでしょうか――
「ぷっ……」
 あ、美羽璃先輩が笑ってくれました!
「突然何を始めるかと思ったら、モノマネって……
 遥ちゃんって、面白い子なのね」
「しかもクオリティ高いし!
 投げるフォームも綺麗だったけど、経験者なの?」
「いえ。ただ、小さい頃から父や兄と
 よくキャッチボールをしていました」
「なるほどね、どうりで上手なわけだわ」
 良かったです。少しだけですが、
 部室が明るくなった気がします。
 実をいうとなかなかに恥ずかしかったのですが、
 これならやった甲斐があるというものです。
「遥のおかげで、元気出たんとちゃう?」
「そうね、FA? で獲った選手も、
 1軍に合流したみたいだし、きっとなんとかなるわ」
「陽岱鋼ね。パリーグ経験者だし交流戦にはうってつけかも」
「先発も菅野だから、負ける要素が見当たらないじゃない……!
 なにより、最後には私の坂本様がきっとなんとかしてくれるわ!」
「その発言、フラグにならんとええけどなぁ」
「ちょっと! さっきまでの気遣いはどうしたのよ!」
 不吉なこと言わないでくれるかしら!?」
 いつも通りの二人を見てか、
 浜愛先輩が嬉しそうに笑っています。
 交流戦はまだ始まったばかりです。
 ここから、先輩方の好きなチームが
 巻き返してくれますように!