みなさんこんにちは。
 ゴールデンウィークも終わり、今日から授業再開です。
 大型連休中、私はプロ野球のニュースを気にしてみたり、
 順位表とにらめっこしたりしていました。
 なので、私には予言できることがひとつあります。
 今日はきっと、あの先輩がご機嫌に違いありません。
「こんにちは」
「なーっはっはっはっは!」
 私が部室に入ると、その先輩が高笑いで迎えてくれました。
「虎々奈、それ3回目だよ」
「え……ってことは、誰かが来るたびにこれをやってるの? 呆れた……」
「なんとでも言いやー! そっちがなんぼ騒いだところで、
 ウチが首位っちゅー事実は揺るがんのやー! わはははは!」
 そうなのです。
 虎々奈先輩が応援する阪神タイガースが、
 それまで1位だった広島カープとの3連戦を
 3連勝で飾った結果、セ・リーグの首位に躍り出たのです。
「虎々奈先輩、おめでとうございます!」
「ありがとぉー! んん〜、遥はええ後輩やなぁ〜♪」
「わわわ……!」
 ご機嫌真っただ中の虎々奈先輩に、
 熱い抱擁からの頬ずりをプレゼントされました。
 これは、ちょっとくすぐったいです……。
「若さあふれる選手を並べて、打って打って打ちまくる!
 これぞ金本監督の目指しとった超変革や!
 見とれよ! このまま首位を突っ走って優勝したるからなー!」
「超変革だか唐変木だか知らないけど、どうせすぐに落ちてくるわよ」
「広島も抜けないチームは黙っとってくださーい。べろべろべー」
「ぐっぬぬぬぬ……」
「ウチも上位争いに食い込みたいけど、
 阪神は3年くらい前からずっと苦手なんだよねー」
「なはは、いつもお世話になっとりますー」
「横浜は阪神が苦手なのですか?」
「そーなの。私も一緒にネガティブになっちゃって、
 なんか打たれそうだなーとか、後半追いつかれそうだなーとか、
 負のイメージが付きまとっちゃってね」
「なるほど、相性が悪かったんですね」
「あるある。ウチも去年一昨年と、苦手にしとった
 チームが2つほどあって……」
 おや。それまで饒舌だった虎々奈先輩が、
 そこでピタリと口を閉じてしまいました。どうしたんでしょうか。
「どこが苦手だったんですか?」
「……えーと……広島とー……」
「ふふふ……ほら、早く教えてあげなさい。
 可愛い後輩が知りたがっているわよ?」
 これは、ひょっとして……。
「さあさあ、言いなさいってば。
 どこのチームにこてんぱんにされていたのか、
 むせび泣きながら白状しなさい!」
「どこやったかなー! ど忘れしてしもーたわ!」
「わ、わかりました、大丈夫です」
 好奇心は猫をも……というやつです。
 今回の場合は、虎を殺してしまうところでした。
「にしても、あれだけエラーを重ねて1位ってどういうことなのよ?」
「守備がダメでも勝てばええんや。勝てば官軍や!
 こないだの試合でそれを証明したったんや!」
「それはひょっとして、土曜日の試合ですか?」
「おおー! 遥もついに阪神ファンになったんか!」
「あ、いえ、ニュースを見たのです。もの凄い試合でしたね」
「せやろ! 9点差! 9点差からの逆転勝利やで!」
「逆転といえば、浜愛先輩も……」
「そーなの! こっちは5点差だったけど、
 後半に追いついてからのサヨナラでもうサイコーだった!」
 どちらのチームも大逆転勝利だったので、
 先輩方の口調にも熱がこもっていきます。
「今思い出しても震えるわぁ……
 ツーアウト満塁で高山の走者一掃スリーベース!」
「梶谷がインコースをこう、クルッて! クルッて打って
 同点満塁ホームラン!」
「連休入って当たりだした梅野もこれまたスリーベースで大逆転!」
「途中出場の柴田が値千金のセンターオーバーで
 プロ入り初のサヨナラ打ーっ!!」
「「いぇーい!」」
 浜愛先輩と虎々奈先輩による、息ピッタリのハイタッチが出ました。
 応援するチームは違っても、
 勝利の喜びを分かち合えるのはなんだかステキです。
「巨人も、たしか中日相手に勝ち越していませんでしたか?」
「そうなんだけど、最下位が相手だからそれくらい当然だし……」
 なんとも余裕の発言です。
「そもそも、連休中は海外にいたから結果しか見ていないの。
 そうそう、そこにお土産があるから、よかったらどうぞ」
「ありがとうございます」
 机の上を見ると、なにやら高級感あふれる包装のお菓子が
 存在感を放っています。ごくり。
「まあ、昨日の試合は散々だったんだけどね……」
「久保がアカンかったみたいやね」
「そうなんだよー。せっかく奮発して内野席とったのに、
 2回で7失点はヘコむ……」
「あー、ハマスタにおったんか……そりゃツラいな……」
「浜愛先輩、直接球場に足を運んだんですか?」
「うん。今年はちょっとグッズを買いすぎちゃって
 あんまり現地に行けてないんだけど、
 去年はひと月に2〜3回のペースで行ってたんだ」
「野球は球場で観ると、よりいっそう楽しめますよね」
「そうなんだよね! 昨日は負けちゃったけど、でもやっぱり
 臨場感とかファンの一体感とか、テレビの前じゃ味わえない
 魅力がいっぱいで良いよねぇ……!」
「地元はええよなー。甲子園球場なんて気軽に行かれへんわ」
「東京ドームでよければいつでも招待してあげるのに。
 まあ、虎々奈がよければ、だけど」
「アカン、それだけはアカン……!」
「ダメなのですか?」
「美羽璃が招待してくれる席は、基本的に巨人側だからね」
「あ……なるほど」
「試合は生で観たいし特等席も魅力的やけど、
 巨人側の応援席に座るのだけはプライドが許さん……!
 金本が許してもウチが許さんのや……!」
 なるほど、虎々奈先輩には譲れないものがあるようです。
「明日も観に行こうかしら。阪神の選手がうなだれる光景をね」
「あー、そういや明日から3位のチームと試合やったなー
 困ったなー、また貯金が増えてまうなー」
「ふ、ふふ……せいぜい三日天下を堪能なさい。
 直接対決でたたきのめしてあげるんだから」
「ええ度胸や、菅野の連続完封記録もろとも
 ぶっ潰したるからな……! 負けても部活休むなよ!」
「その言葉、そっくりそのまま返してあげるわ」
「ご自慢のタオルで涙拭く用意しとったほうがええん違う?」
 二人とも、おでこがくっつきそうな距離で睨みあってます。
 その流れでキスをするお笑い芸人を思い出しました。
「虎々奈先輩と美羽璃先輩、火花がバチバチですね」
「この二人はいつもこうだからね。
 野球でも、野球以外のことでも」
「それよりあなた、さっきから私のお土産を食べ過ぎよ!
 みんなのために買ってきたのに!」
「いつまでも置いといたってしゃーないやろ!
 食べてもらえるだけありがたく思いやー!」
 虎々奈先輩と美羽璃先輩は、どちらが欠けても
 プロ野球愛好会の活気がなくなってしまいそうです。
 ……あれ。
 そういえば、なにか忘れているような……。