みなさんこんにちは。
 今週に入って、ぐっと寒くなりましたね。
 気象予報士さんが言うには、
 1月中旬なみの気温が続いているそうです。
 この季節になると必ず思うことなのですが、
 男子のズボンがうらやましくて仕方がありません。
 なぜ女子だけがスカートで、寒空の下でも
 素足をさらさなければならないのでしょうか……。
「こんにちは」
「遥ちゃん、見て見て!」
 部室の扉を開けるなり、浜愛先輩が
 嬉々とした様子で出迎えてくれました。
「これは、ストーブ……!」
「そうなんだよー! 美羽璃がね、
 家で使ってないからって持ってきてくれたの!」
 部室のすみに設置されたそれは、
 静かながらも快適な温風を送ってくれています。
「美羽璃先輩、ありがとうございます!」
「いいのよお礼なんて。数万程度の安物だけど、
 虎々奈には充分すぎるくらいかなと思って」
「お前の数万とウチらの数万を一緒にすな!
 高級家電やぞこんなもん! ありがとな!」
「あったかい……ストーブリーグって感じがする……
 ふへへへ……ホットヤクルト作ろうかな……」
「響きだけでもうマズそうやな……」
 美羽璃先輩のおかげで、いつもより部室が
 暖かくなっています。これなら、今年の冬は
 心地良く過ごすことができそうです。
「そういえばみんな、昨日の試合観た?」
「トーゼンや。昨日に限らず全部観とったでー」
「テレビをつけたらたまたまやってたから、
 私は昨日の試合だけ観たわ。
 優勝できたのはウチの田口のおかげね!」
 先週の木曜日から、
『アジアプロ野球チャンピオンシップ』という
 代表戦が行われていました。
 日本は台湾と韓国を下して、
 見事優勝を手にすることができました。
「阪神の誇る若き豪腕リリーフ、
 岩崎剛の名をアジアにとどろかせることが
 できたんとちゃうかな! なーっはっはっは!」
「桑原はちょっと残念だったけど、
 今永とヤスアキは貢献できてたよね!
 12球団のファンがヤスアキジャンプしてくれたのは、
 ホントに嬉しかったなぁ……!」
「坂本様が選ばれないのは
 陰謀か何かかと思っていたけれど、
 どうやら若手だけっていうルールがあったのね」
「……………………」
「……つばめ先輩、大丈夫ですか?」
 シーズンが終わって、ここ最近は
 体調が安定しているように見えたつばめ先輩ですが、
 今日はあまり元気がないように見えます。
 他の先輩は代表戦の話で盛り上がっているのですが、
 一人だけ窓の外の、遠くの景色を見ています。
「大丈夫、だよ……遥ちゃん、
 いつも心配してくれてありがとう……ふへ」
「つばめ先輩は、試合を観ていなかったのですか?」
「ううんー……ちゃんと観てたよー……
 韓国との一戦目……劇的なサヨナラ勝ちだったよねー……」
「でもなんだか、今日はいつもより顔色が……」
「んー……しいて言うなら……ウチの選手が、
 一人も選ばれてないからかなぁ……」
「えっ……」
 助けを求めるように浜愛先輩たちの方を見たら、
 一斉に視線を逸らされてしまいました。そんな……!
「あれは、各球団から何人かが選ばれる、
 オールスターのようなものではないのですか……?」
「あ、あのね遥ちゃん、今回の大会は24歳以下か、
 もしくは入団3年以内の選手ってルールの中から、
 稲葉監督が選んだメンバーが出場ってことになってて……」
「なるほど……それは、つまり……」
「ヤクルトには若手の有望株が
 特にいなかったということよ」
「ぐはぁっ……!!」
 ああっ! つばめ先輩が吐血を……!
「おい! 発言が火の玉ストレートすぎるやろ!」
「で、でも本当のことだし……まあ、
 うちも田口くらいしか出てないから、
 あまり他所のことは言えないけど……」
「それ言うたら、ウチも石崎一人やわ……
 大山あたりは呼ばれると思ったんやけどなぁ」
「代表選考はパの選手が多かったよね。
 稲葉監督がパリーグ出身で、呼びやすいからって
 理由もあったのかもしれないけど……」
「……ヤクルトで……野球してた時代も……
 あったはずなんだけどな……」
「も、もちろん忘れてないよ! でもほら、
 選手としての知名度が高い方って言ったら、
 やっぱり日ハムになっちゃうのかなーって……
 い、稲葉ジャンプとかあったし!」
 つばめ先輩の吐血をティッシュで拭きながら、
 浜愛先輩が必死にフォローしています。
 救急車も辞さない事態だと思っていたのですが、
 皆さん慣れっこなのでしょうか……。
「でも浜愛の言うとおりパの選手が多めで、
 しかも躍動しとったなぁ。山川に源田に上林、
 あと近藤のバッティングは
 芸術通りこして変態的やったわ……」
「うんうん、これぞ4割打者のバットコントロール!
 って感じだったよね……!」
「でも……台湾戦の今永とか……
 私は、本当にすごかったと思うよ……
 外野どころか、前に飛ばされる気がしなかったし……」
「ありがとーつばめ! 今永は今年一年で
 ぐーんと成長してくれた選手だから……!
 あの試合は私もすっごく嬉しかった!」
「今調べてみたら、パリーグが16人で
 セリーグが9人……交流戦でも感じることだけど、
 やっぱり実力差があるのかしらね」
「人気のセ……実力のパ……って、
 昔から、言われてたみたい……だからね……」
 これは完全に私の心の声なのですが、
 ちゃっかり回復しているつばめ先輩が
 しっかり会話に参加できていることに、
 ひっそりと安心しています。
「そういえば、プロ野球愛好会には
 パリーグのファンがいませんね」
「そうなんだよー、部員は年中無休で募集中なんだけど、
 やっぱりプロ野球が好きな女子って
 なかなか見つからなくて……」
「この時期はさすがに厳しいんとちゃう?
 来年の新入生に期待するしかないやろ」
「ロッテのファン……来ないかな……
 わたし、仲良くなれそう……ふへへへ……」
「ソフトバンクファンの子が入ってきたら……
 やっぱり、私よりもお金持ちだったりするのかしら」
 もうすぐ今年が終わって、冬が終われば
 私もあっという間に2年生になってしまいます。
 もし、この部活に後輩が入ってきたら……
 私もいよいよ、プロ野球愛好会の
 先輩ということになりますね……!