みなさんこんにちは。
 季節が過ぎるのは早いもので、
 今年も残すところあと2ヶ月となりました。
 制服だけでは肌寒い日も多くなり、
 コートに身を包んでいる人もちらほらと見かけます。
 この時期は走り込みや筋トレなどで、
 下半身の強化に努めるのが主流となってくる頃ですね。
 それは高校野球に限らずスポーツ全般、
 そして当然プロ野球にも当てはまることだと思います。
 さて、問題はそのプロ野球なのですが……。
(浜愛先輩、大丈夫でしょうか)
 部室の前でしばらく立ったまま、
 ドアを開けることをためらってしまいます。
 先日、プロ野球の最終戦でもある
 日本シリーズの決着がつきました。
 その結果は少なくとも、私たちにとっては
 望ましいものではなかったので……
「こんにちは……」
「お、遥ちゃんやっほー」
 そろーっと扉を開けると、浜愛先輩が
 いつものように手を振って迎えてくれました。
「遥ちゃん……こんにちは……」
「どしたん? ほら、ここ座りや」
「は、はい、失礼します」
 入った当初は珍しい光景だったのですが、
 今ではすっかり全員集まることの方が
 多くなっている気がします。
「まったく、この部室はいつになったら
 暖房の設備が整うのかしら……」
「そんなん、金持ちの美羽璃がポンと
 買うてくれたら済む話やん」
「それは別に構わないけれど、私の買った
 暖房器具で虎々奈が暖を取るのはなんか嫌」
「なんか嫌ってなんやねん! そんくらいええやろ別に!
 マイコラスがメジャー帰って浮いた金で買うてくれや!」
「え……? マイコラスが帰る? どういうこと?」
「でもこれからの季節、暖房は欲しいよね……。
 去年も寒い思いをしたし、なにより
 ストーブリーグも始まることだし……」
「部室が、温かい方が……風邪を引く回数が減るから……
 私としても……嬉しいな……」
「どちらにせよ風邪引く前提なんやな……」
「つばめにそう言われると悩むわね……ってそれより、
 マイコラスが帰るってどういうこと? ねえ?」
「あ、あの……」
「ん、どうしたの遥ちゃん?」
 もしかしたら、私が来る前に
 とっくに話題になっていたのかもしれませんが……
 それでも気になってしまいます。
 こればかりは、聞かずにはいられません……!
「浜愛先輩、土曜日の試合は……」
 そう言いかけた私の手を、
 浜愛先輩が両手で握りしめてきて……
「遥ちゃん、よくぞ聞いてくれました……!」
「え……?」
「私もね、その話をいつ切り出そうかなーって
 思ってたんだけど……みんな気を遣ってくれてるのか、
 日本シリーズのにの字も出てなかったんだよ」
「そうなのですか?」
 私が先輩方の方を見ると、
 揃ってばつの悪そうな笑いがこぼれました。
「まあ、終わり方がアレやったしな……。
 浜愛も落ち込んでるとは思っとったけど、
 でもやっぱり話したくてウズウズもしとったわけで……」
「というか浜愛、思ったより明るいわよね」
「んー、さすがに負けた日は落ち込んでたよ?
 スポーツニュースは当然ソフトバンク一色だし、
 お風呂入ってる間もずーっと悶々としてたし……
 でも、寝て起きたらだいぶスッキリしたかな」
「最後は……残念だったけど……でも、
 大健闘だったと思うな……ベイスターズ、強くなったよね……」
「うううぅ……ありがとーつばめ!」
「は、浜愛ちゃん……そんなに……
 くっつかれると……温かいよ……」
 浜愛先輩にぎゅっとされたつばめ先輩が、
 戸惑い混じりに照れています。
「たしか最後の試合も、9回1アウトまでは
 横浜がリードしていたわよね?」
「うん、けど内川が……ここぞの場面で内川がぁ〜……!」
「あれは流石やったなぁ……ホークスの4番を張る男の
 底力を見せつけられた感じやったで」
「結果論だけど……ああなっちゃうと、やっぱり……
 8回の1点が悔やまれるね……」
「砂田のアレだよねー……ホームで挟めれば
 一番良かったんだろうけど、ちょっと判断を
 焦っちゃったのかもね……」
「サヨナラ食らった最終回のアレも、
 その前にゲッツー取れてればまだ分からんかったもんなぁ」
「結果的に、守備のミスが負けに繋がるパターンが
 多かったね……2戦目の倉本もそうだし、
 5戦目の明石もそうだし」
 野球はミスをした方が負けるスポーツ、
 という言葉を聞いたことがあります。
 まさしくそれが証明されてしまった、というところでしょうか。
「あ、ちなみにね遥ちゃん……
 サヨナラヒットを打ったソフトバンクの
 川島慶三選手はね、ヤクルトにいた選手なんだよ……」
「そうなのですか?」
「もっと言うと、最初は日ハムなんだけど……
 でも、ヤクルトが育てたと言っても過言ではないの……
 つまり……あのサヨナラヒットは、
 ヤクルトが打ったヒットなの……ふへ……ふへへへ……」
 なんだかもの凄く飛躍した理論な気がしますが、
 つばめ先輩の笑顔から狂気のようなものを感じてしまって、
 納得してしまいそうになります……。
「それにしても、ソフトバンクはいくら払って
 あれだけのチームを作り上げたのかしら。
 ウチも見習うべきだわ」
「最近やと巨人以上に大金払ってめぼしい選手
 かっ攫ってる印象あるなぁ」
「それに加えて……柳田、松田、中村晃……
 千賀に森に東浜……他にもたくさん、自前で育てた選手も
 活躍してるから……もう、手が付けられない強さだよね……」
「まるでラスボスですね……」
「あはは、その表現ピッタリかも。
 いきなり3連敗したときは、勝つイメージが
 全然浮かんでこなかったもん……」
「でも、そこで新人の濱口が救世主として
 よう踏ん張ったと思うわ」
「そうなんだよー! あの大舞台でソフトバンク打線相手に
 堂々たるピッチング……! あれでまだ一年目だよ!?
 横浜の未来は明るいよ! 明るすぎて眩しいくらいだよー!」
「横浜は、まだ若い選手が多いから……
 来年以降、ますます手強くなりそう……」
「ウチももう少し、活きの良い新人が欲しいものね……
 投手はそれなりにいるみたいだけど、野手はおじさんばっかりだわ」
「新人と言えば、日本シリーズの前に
 ドラフトもありましたね」
「そうだね、ウチは即戦力投手一本釣り!」
「私はあまり興味がないから分からないけど、
 ネット上で散々ハズレって叩かれているのが気になるわね……」
「ウチは清宮外してもうたからなぁ……つか、
 スター性のある選手パリーグに獲られすぎやろ!」
「ウチは……怪我さえしなければ……
 それでいいかな……ふへ……」
 日本シリーズが終わり、ドラフトも終わり……
 プロ野球界を盛り上げるイベントが次々と
 過ぎ去っていきましたが……あれ?
「あの……」
「ん? どうしたの遥ちゃん」
「つい先日、日本シリーズが終わってしまったんですよね」
「そう、残念ながら横浜は2勝4敗で……」
「これ以降、来年の開幕まで試合はないんですよね?」
「せやな、今はオフシーズンってやつやし」
「その間、この部活はどういった活動をするのですか?」

「「「「……………………」」」」

 あ、あれ……先輩方の視線が、一斉に虚空を……。
「あれ……去年どうしてたっけ?」
「アカン、全然記憶にないわ……確か、
 FAの話をしとったのは間違いないんやけど……」
「それで……もし自分がプロテクト選手を選ぶなら……
 って……みんなで、プロテクトごっこして遊んでた気がする……」
「あーやってた! プロテクトごっこして遊んでた!」
「名前からしてつまらなそうなのに、
 よくそんな遊びで盛り上がれるわね……」
「にわかの美羽璃にはオモロないかもしれんけど、
 ちゃんとしたファンにとっては楽しいゲームっちゅうこっちゃ」
「う、うるさいわよ!」
「とにかく、オフシーズンでも野球の話はしてるから、
 遥ちゃんもよかったら顔出してね!」
「はい、わかりました」
 えふえー、という単語はこの部室で
 何度か聞いたことがありますが、プロテクトは初耳でした。
 キャッチャーが身につけているプロテクターなら知っているのですが……
 私はまだまだ、勉強すべきことがたくさんあるみたいです……!