みなさんこんにちは。
 普段からあまり感情が表に出ないと言われがちな私ですが、
 今日ばかりはクラスの友達から
「なにか良いことあった?」と尋ねられました。
 正確には、私の親しい先輩にとても良いことがあったのですが、
 先輩の喜ぶ顔を想像すると私も笑顔になってしまうので、
 つまりは私にとって良いことがあった、と言えます。
 部室へと向かう歩みも、いつもよりちょっと早足気味です。
「こんにちは!」
 扉を開くと、そこにはみんなが揃っていました。
 その中でも、ひときわニコニコと笑っている先輩に……
「浜愛先輩、日本シリーズ進出おめでとうございます!」
「ありがとー遥ちゃん!
 やったよ! やったんだよーーーー!!」
「わわっ……」
 私が祝いの言葉を述べるなり、
 浜愛先輩が熱烈な抱擁で迎えてくれました。
 きっと、他のお三方にも同じことをしていると思います。
「夢みたいだよ! シーズン中はあれだけ離されてたのに、
 大逆転で日本シリーズに行けるなんて……!
 3位からの逆転はセリーグ初だよ! 強いぞ横浜ベイスターズぅー!」
「いやー、まさかホンマに広島倒すとは思うてへんかったわ……」
「あら、私は信じていたわよ?
 横浜ならきっと成し遂げてくれるってね」
「ふへへ……美羽璃ちゃん、横浜ファンみたいな発言だね……」
「みんなありがとう……! あと、昨日のLINEも嬉しかったよ!」
 昨晩、横浜が広島に勝利した瞬間に、プロ野球愛好会のグループトークが
 スタンプでとても賑やかなことになりました。
 みなさん自分の好きなチームのスタンプを使って、
 浜愛先輩にお祝いのメッセージを伝えたりしていて、
 とても微笑ましい光景になっていました。
「しかしホンマに……その、なんや……ええと……」
「ん? どうしたの虎々奈」
「その……すまん浜愛!」
「えっ……?」
「先週、3連敗で終わってしまえなんてヒドいこと言ってしもて……」
「ああ、あのこと? あんなの気にしなくていいよ!
 虎々奈の気持ちはよく分かるし、試合の次の日だったから、
 立場が違ってたら私だって落ち込んでただろうし……」
「確かにあん時は機嫌が悪かったんやけど、
 相手を讃える気持ちを忘れたらアカンよなーって……
 初戦に雨で5回コールド負けしたときも、
 このままホンマに3連敗したらどないしよってハラハラしとったんや……」
「あら、阪神ファンにも人の心があるのね」
「どういう意味やねん!」
「阪神ファンだけに、虎の心を持ってたりとか……
 がおー……なんちゃって、ふへへへ……」
 たった今つばめ先輩から、これまでの私の人生の中で
 もっとも弱々しい虎の鳴きまねをいただきました。
「とにかく、全然気にしてないから大丈夫だよ。
 違うチームを応援する人がひとつの場所に集まる以上、
 仕方のないことだと思うしさ……って、虎々奈?」
「ううっ……浜愛はなんて出来た子なんや……
 性格のねじ曲がった美羽璃と同い年とは思えへんで……!」
「ちょっと!」
「と、ところで皆さん、日本シリーズというのは
 いつから始まるのですか?」
「確か……もう、今週末とか……じゃなかったかな……」
「土曜日だね、3、4、5戦がハマスタのはずだから、
 まずは福岡ドームかな」
「そこで、王者のソフトバンクが待ち構えてるというわけね」
「福岡ソフトバンクホークスは、
 パリーグの1位チームですよね?」
「そう、だね……それに、3年前と2年前は……
 どっちも日本一になってるの……」
「リーグは違えど交流戦でやられとるし、
 あんだけ強すぎるとはたから見ててもオモロないわな」
「楽天が先に2勝したときはひょっとしたらって思ったけど、
 そう簡単には行かないよね……最後の試合も、柳田が
 帰ってきて俄然勢いづいてたし……」
「そんなに手強いチームなのですね……」
 浜愛先輩や虎々奈先輩が表情を曇らせているのを見ると、
 実力の程がうかがえます。
「大丈夫よ。横浜には我らが読売巨人軍から授かりし
 最強助っ人のロペスがいるじゃない」
「恩着せがましい言い方やなぁ。
 そっちがクビ切ったんちゃうんかい」
「でも……ロペスは今年、本当にスゴかったよね……
 ファイナルステージも、MVPだったし……」
「そうなんだよ! 今シーズンは不調の波が小さかったし、
 特に前半戦なんかは、筒香とか倉本の調子が
 上がってこない時期にロペスがいなかったらと思うと……
 まさに神様仏様ロペス様!」
 浜愛先輩が祈るように手を組んで天を仰いでいますが、
 そうしたくなる気持ちも分かるような気がします。
 阪神戦、そして広島戦と、CSでのロペス選手の活躍は
 とても頼りになるものでした。
「浜愛先輩から見ても、今回の勝利の立役者はロペス選手ですか?」
「それは……んー!
 確かにロペスの活躍はスゴかったけど、でもこれは
 選手全員が一丸となって掴んだ勝利かなって……!
 今年はシーズン中からずっと、選手達が同じ目標に向かって
 絶対に諦めない戦いができてたっていうか……
 ここ一番の集中力が、誰一人として欠けてなかったって気がするの!」
「昨日おとといの投手リレーなんかまさにそんな感じやもんなぁ。
 ノーアウト満塁から三上とエスコバーでねじ伏せたあれは
 他球団ファンでも鳥肌モンやったで」
「あそこで……広島を勢いづかせなかったのは大きかったよね……
 頼れる中継ぎがいるの……うらやましいなぁ……ふへへ……」
「ピッチャーが頑張ってくれた姿を見て、
 打線が奮起して点を取る……まさにそんな感じで、
 もうホントに……強いチームになったんだなって……うう……!」
「ちょっと浜愛、泣くのはまだ早いわよ」
「せやせや、ここまで来たら目指すは日本一やろ!」
「ホークス名誉生え抜き選手の内川に……
 強くなった横浜を、見せてあげてね……」
「そ、そうだよね……! まだ戦いは終わってないもんね!」
 涙がにじみそうになった目元を、浜愛先輩が袖で拭いました。
「よーし、日本シリーズも全力で応援するぞー!
 絶対勝つぞーベイスターズぅー!」
 プロ野球はいよいよ頂上決戦を迎えます。
 パリーグのことはよく分からないので、
 私も一生懸命横浜を応援したいと思います!