みなさんこんにちは。
 私は今、プロ野球愛好会の部室にいます。
 ここはプロ野球を好きな人たちが集まって、
 自分の応援するチームのことだったり、
 前の日の試合結果のことだったり、
 プロ野球に関する雑談を楽しむための場です。
 ……なので、私も分かってはいたつもりでした。
 シーズンも大詰め、ペナントレースは終盤に差しかかりました。
 一試合の勝敗が運命を左右するこの状況で、
 部室の空気がこうなることは……分かっていたつもりでした。
「ふ、ふふ……ふふふふふ……!」
「は、浜愛先輩……?」
 浜愛先輩が、遠くを見ているのか
 近くを見ているのか分からない目つきをしています。
「遥さん、そっとしておいてあげて。浜愛は今、
 坂本様率いる我らが読売巨人軍に3位の座を奪われて、
 傷心状態みたいだから。おほほほほ」
「率いてるのは……由伸監督……」
 もはや肌の露出より包帯で覆われた面積の方が多そうな
 つばめ先輩ですが、それでも消え入りそうな声で
 会話に参加しようとするその心意気に、私は涙が出そうです。
「気遣いは無用だよ美羽璃。私はね、今からもう
 気持ちの高ぶりが抑えられないんだよ……」
「高ぶり……?」
 きょとんと首を傾げる美羽璃先輩と、
 わなわなと手を震わせた浜愛先輩が向かい合っています。
「明日から始まる巨人との2連戦、ウチにとっては
 今年一番大切な対決になること間違いなしだからね!」
「ああ、そういえば次は横浜とだったわね。
 ごめんなさいね、ウチは上しか見ていないから」
「1ゲーム差ごときでなにを余裕ぶっこいとんねん!
 横浜に足元すくわれても知らんでー!」
 おや、この声は……
「虎々奈! おかえり!」
「虎々奈先輩、お久しぶりです」
「ふっ……待たせたなぁみんな……
 ここに戻ってくるのに、ちょっと時間がかかってしもうたわ」
「夏休みの宿題、やっと終わったのね」
「お疲れさま……虎々奈ちゃん……がんばったね……」
「声小っさ! しかもなんか包帯増えてへん……?
 つばめ、あんま無理して喋らんでええよ?」
「昨日はありがとう虎々奈……! 阪神のおかげで、
 ゲーム差がひとつ広がらずに済んだよー!」
「あー、昨日なー。ウチもホンマは勝ちたかったんやけど、
 あの点が入りそうで入らない攻撃、めっちゃもどかしかったわ……」
「勝ちたかったのはウチの方よ……!
 3位になってさあここからって時に、阪神なんかに
 2試合連続引き分けなんて……あり得ないわ!」
「なんかとはなんやなんかとは! お前んとこと
 どんだけゲーム差開いてんのか知っとんのか!」
「ゲーム差なんてどうでもいいでしょう? そんなもの
 いくら開いていようが、CSで倒しちゃえば関係ないわよ」
「ちょっと待ったー! ウチだって諦めてないんだからね!
 残りの試合を全力で戦って、Aクラスに返り咲くよ!」
「みんな……楽しそうでいいなあ……ふへへへへ……」
「つばめ先輩、今まで見たことないくらい
 顔色が極悪なんですが……大丈夫ですか?」
「うん……大丈夫ー……いつも心配してくれてありがとうね……」
 顔色もさることながら、よく見ると目の焦点が合ってません!
「それより聞いて遥ちゃん……ウチは昨日ね……上位チームが……
 げほっ……激戦を、繰り広げてる裏で……ひっそりと……
 本当にひっそりと、今シーズンの最下位が確定したのー……ぱちぱちぱちぱちー……」

 ええと……私は一緒に拍手をするべきなんでしょうか……。
「しかも明日から広島とやるんだっけ……」
「それは辛いわね……目の前で胴上げを見せつけられるなんて」
「いやいや、ヤクルトが負ける前提で話すのやめたれや」
「そっちじゃないわよ。明日阪神が負けても優勝でしょ?」
「しばいたろかコラァ!!」
「でもさ、敵チームの胴上げってファンとしてはもちろん見たくないけど、
 選手にとっては良い発奮材料になりそうじゃない?」
「悔しさをバネに……ということかしら?」
「そーそー! 悔しさをバネに! バネと言えば黒羽根!
 日ハムで元気にしてるかなぁ……」
「まー確かに、『来年はウチらがやったるでー!』
 みたいな気持ちにはさせられそーやな」
「でしょでしょ? だから昨日もさ、ゲーム差のこととか
 考えたらもちろんナシなんだけど、どうせなら目の前で
 見せつけて欲しかったなってちょっと思ったんだ。そうすれば、
 残りの試合で謎ブーストかかりそうじゃない?」
「じゃあ……ウチが試してあげるね……
 謎ブーストで中日とのゲーム差を縮められるかどうか……」

「でも根本的に、上位争いをしてるチームじゃないと
 モチベーションが上がらないんじゃないかしら」
「がはぁっ……! げほっ、ごほっ……!」
「つ、つばめ先輩! 大丈夫ですか!?」
「思ってても言わんとこーってみんなが感じてたことを
 ためらいなく言葉にしよるなお前……」
「ご、ごめんなさいつばめ、悪気はなかったのよ……?」
「あれ……川端に畠山……雄平に、ブキャナンもいる……ヤクルトの選手が、
 川の向こうで手を振ってる……サインもらえるかな……今、そっちに行きます……ふへへへへ……」

「ダメです! それ渡っちゃダメなやつです!
 浜愛先輩、つばめ先輩がなにやら大変なことに……」
「そう、1位も最下位も関係なく、今はどこも大変なんだよ……
 けど、こういう厳しい戦いを若い選手達が経験していくことで、
 ベイスターズはまだまだ強くなっていくんだよ!」
 ここにきて浜愛先輩が聞く耳持ってくれません!
「というわけで、明日からの2連戦は絶対勝ぁーつ!
 去年のCSでぶつかった時くらいの本気、
 見せてあげるからね!」
「ええ、いくらでも見せてもらって構わないわ。
 横浜がどんなに死力を尽くしてこようと、
 最後に笑っているのは私の坂本様なんだから!」
「おーいつばめー、この指の握りなんに見えるー?」
「フォーク……」
「よし、大丈夫やな」
「大丈夫なんですかそれ!?」
 つばめ先輩の容態は心配ですが、
 明日の試合のことを考えると、私もソワソワしてきました。
 セリーグの上位争い、Aクラスに残るのは
 果たしてどのチームなのでしょうか……!