みなさんこんにちは。
 早いもので、夏休みも残すところあと10日となりました。
 そして、私の大好きな甲子園もいよいよ明日で決着です。
 開会から今日まで、ほぼ毎日のようにテレビで観戦していましたが、
 今年もたくさんの名勝負を堪能させていただきました。
 白熱した投手戦、土壇場からの逆転劇、目の覚めるようなファインプレー。
 もらい泣きしてしまうような試合もたくさんあって、
 終わってしまうのがただただ名残惜しいです。

 さて、今日は部活のみんなでファミレスにやって来ました。
 ちょうど第二試合が終わったタイミングで、
 浜愛先輩からお誘いをいただいたのです。
「ドリンクバーでいいよね? あ、私サラダ食べたい」
「ピザとドリアとスパゲティと……
 なー美羽璃、ピザ半分ずつ食わへん?」
「別にいいけど、この前みたいにいきなり
 タバスコを全体にかけるのだけはやめてよね」
 部活のみんなで、と言っても……
「つばめ先輩は、今日も体調不良ですか?」
「うん、またちょっとダメになっちゃったみたい……」
「そうですか……」
「日曜日にサヨナラ負け、昨日は真中が辞任発表、
 待ち望んどった川端も手術決断で今期絶望じゃ、
 無理もあらへんけどな……」
「川端選手……あっ」
 思い出しました。つばめ先輩の家にお見舞いに行ったときに、
 首位打者に輝いたこともある頼もしい選手だと言われた人です。
 今季絶望ということは、シーズンが終わるまで
 出られないということでしょうか……。
「真中って、ドラフト会議で間違えてガッツポーズした人よね?」
「そこで覚えとるんかい。あれはウチも腹抱えて笑ったけど」
「えっと、まずドリンクバーを4つと……」
 メニューを手にした浜愛先輩が、
 みんなの分の注文を伝えてくれています。
「そういや遥、お肌が真っ白に戻ってへん?」
「そうでしょうか……はっ、そうですね」
「甲子園に夢中になって、家から一歩も
 出てないんじゃなくって?」
「はい。ほとんど引きこもり生活です」
 地区予選のときはこんがり焼けていた私の肌ですが、
 夏休みが進むにつれてすっかり元通りになってしまいました。
「遥ちゃんはホントに高校野球が好きなんだね」
「はい! 朝から夕方まで、毎日テレビにかじり付いてます!」
「今年はなんか、めっちゃホームラン出とるらしいやん。
 大会記録も塗り替えたとかって」
「そうなんです! 大会通算のホームラン数もなのですが、
 選手個人の記録も今日更新されたんです!」
「広陵の中村だっけ? 打てるキャッチャーっていいよねぇ」
「ええなあ……」
「いいわね……」
 虎々奈先輩と美羽璃先輩が、仲良く遠くを見つめています。
「甲子園、私も時々見てたんだよ。
 この前のあれがすごかったなー」
「どの試合ですか?」
「えっと、最終回に3点取って同点になって――」
「神村学園と明豊ですね……!」
「そうそう、確かそんな名前!」
「あの試合は凄かったです……!
 延長12回表に神村学園が3点を勝ち越して8対5、
 これで決まりかと思いきや、
 その裏に明豊がツーアウトから起死回生の猛攻を見せて
 3点差を追いつくという熱い展開……!
 最後は冷静に四球を選んで押し出しで決着でしたね……!」
「あーあれか! ウチもたまたま見とったわそれ!」
「遥さん、甲子園のことになると
 実況の人みたいに流暢になるわね……」
「あとあれ、大阪桐蔭の試合も見てたで。
 悔いの残るサヨナラ負けやったけど」
「あの試合も熱かったです!
 同じくツーアウトからの逆転劇でしたが、
 仙台育英の攻撃は……ツーアウト1、2塁からの
 ショートゴロで終わりかと思いきや……ファーストの足が……
 あの場面は、本当にっ……うぅっ……」
「は、遥ちゃん?」
「すっ……ずびばぜん……大阪桐蔭の、
 ファーストの選手のことを思うと……3年間の努力とか、
 頑張ってきた練習のこととかっ……色々想像したら、
 なみだがあふれでしまっで……」
「だからって泣くことないじゃない……
 ほら、これ貸してあげるから」
 美羽璃先輩がオレンジ色のハンドタオルを
 差し出してくれました。よく見ると、
 6という数字の上にSAKAMOTOと書いてあります。
「あの、これは私が使っていいのでしょうか……」
「普通はダメだけど、遥さんは特別よ。
 坂本様に感謝しながら使ってちょうだいね」
「なんで坂本に感謝せなあかんねん。アホくさ〜」
「あ、ありがとうございます!」
 虎々奈先輩の過激な発言をかき消すべく、
 慌てて大きな声を出しました。
「でも、甲子園の方は天気が良くてうらやましいよね。
 今年の夏、ずっと曇りか雨じゃなかった?」
「せやなー。今日になってやっと洗濯できるって、
 ウチのオカンも喜んどったわ」
「この前ニュースで言ってたわね。
 都心では、18日連続で雨が続いたとかって」
「まるでどっかのチームの連敗みたいやなぁ」
「ちょっと、つばめがいないからって
 ヤクルトの悪口はやめなさいよ」
「お前んとこもしとったやろ!
 5月の終わりくらいにめっちゃ負けとったやろ!」
「そんな昔のことはもう忘れたわ。
 それよりも大切なのは今よ今。横浜の背中が丸見えなんだから!」
「気付けば2ゲーム差なんだよね……
 だから巨人は怖いんだよー!」
 この時期のスポーツニュースは
 甲子園とプロ野球の結果がセットになっています。
 なので、私もプロ野球愛好会の一員として、
 セリーグの情報もしっかりとチェック済みです。
 美羽璃先輩の応援する巨人が、ここに来て
 上位との差を着々と縮めているようです。
「最近はマギーと陽岱鋼がよくやってくれているのよね。
 この二人が坂本様の活躍を後押ししてくれれば、
 Aクラス入り間違いなしね!」
「あ、そのたらこのパスタはウチのや。どもどもー」
「ちょっと聞いてるの? 虎々奈も見てた?
 マギーの素敵な満塁ホームラン!」
「見とるわけないやん。結果は気にしとるけど」
「平田が打たれたやつね……」
「平田……聞き覚えがあるわね。中日の選手じゃなかった?」
「それ野手の方やろ。マギーが素敵な満塁ホームラン打ったときの
 相手投手も覚えてないんか?」
「ああ、そういえばそんな名前だったかも」
「でも私は、あの場面で平田が
 選ばれたことが嬉しかったんだよ……!」
 シーフードサラダを取り分ける手を止めて、
 浜愛先輩がそう主張しました。
「平田って2軍では安定してたんだけど、
 1軍のマウンドだとどんなにリードしてる状況でも
 打ち込まれちゃってて、なかなか信頼を勝ち取れてなかったんだ」
「ああ、そんな印象あるわー」
「でも、ここ最近はそれなりに大事な場面を任されるくらいには、
 ちゃんと結果を残してたんだよ。あの時はビハインドだったけど、
 陽相手には踏ん張ってくれたもん。
 最後は甘い球も多かったし、結果も最悪だったけど、
 それでも投げてる球は今までと違ったんだよ!」
 浜愛先輩がこれだけ熱く語るのは、
 なかなか珍しいことのような気がします。
「その平田っていう選手は、浜愛のイチ押しの人なの?」
「え……?」
「なんだか、やけに熱が入っていたから……違った?」
「あ、いや……イチ押しってわけじゃなくて、
 そもそも横浜の選手はみんな好きなんだけど……。
 ネットの意見とか見てたら、なんか、
 すごく悔しくなっちゃって……」
「浜愛がそれだけ熱くなるのもわかるで。
 このまま行けば、ここにいる3チームで
 CSの座を争うことになるわけやし」
 そうなのです。プロ野球は今がまさに大事な時期なようで、
 阪神、横浜、巨人の3チームがCSを目指して
 しのぎを削っている状態です。
 つまり、よほどのことがない限りは、
 この中の誰かひとりがAクラスから脱落することに……。
「このまま巨人が2位まで登りつめて、
 ついでに阪神がころころとBクラスに
 転がり落ちてくれれば言うことなしね」
「なんでウチが落っこちなアカンねん!」
「決まってるでしょ、阪神の調子がいいと
 虎々奈が騒がしいんだもの」
「はっ、弱い犬ほどよく吠えるっちゅーやつや。
 最近調子が良いからって、所詮4位の球団やろ?
 CSなんて夢のまた夢やっちゅーねん!」
「それより虎々奈、夏休みの宿題は終わったのかしら?」
「……メッセンジャーはよう帰ってこんかなー」
 虎々奈先輩には都合の悪い話だったのか、
 急に目の前のピザを切り分け始めました。
「ふふっ。遥さんはこんな先輩になったらダメよ?」
「大丈夫です。夏休みの宿題はもう終わっているので」
「早っ! ウソやろ!?」
「甲子園を全力で楽しむためにも、
 地方大会の終わり頃から集中して終わらせるようにしているんです」
「能見もびっくりの優等生っぷりやん……」
「そうそう、今週末の土曜日に
 みんなで夏祭りに行くんだけど、遥ちゃんもどうかな?」
「夏祭りですか?」
「近所の神社で毎年やってるんだ。
 出店もあるし、人も結構集まって賑やかなんだよ」
「わ……行きたいです!」
「確か、去年行ったときはつばめも一緒だったわよね」
「せやな。あん時はまだウチと熾烈な4位争いしとったから」
 つばめ先輩も来られるといいのですが、
 こればかりはチーム事情がどうなるか分かりません。
「さー、そろそろ試合開始やぞ。今日先発誰やったっけ……」
「今日こそ飯塚に初勝利を……!
 と言いたいとこだけど、相手が野村じゃ厳しいかなぁ」
「今日は……相手が中日でマイコラスね。
 約束された勝利とはこのことだわ」
 先輩方が一様にスマホを取り出して、
 応援している球団の情報を確認し始めました。
 私も私で、今から明日の決勝が楽しみでなりません。
 広陵対花咲徳栄、果たして頂点に輝くのはどちらでしょうか……!