みなさんこんにちは。
 最近はだいぶ暖かくなってきましたね。
 入学式の頃は満開だった桜の木も、
 すっかり緑に染まる今日このごろ、というやつです。
 私はというと、プロ野球のことを日々勉強中です。
 ひとまず、12球団の名前をすべて覚えることができました。
 まだまだ精進が必要ですが、一歩ずつ頑張りたいと思います。
「……おや?」
 なんでしょう、なにやら部室が騒がしいです。
 聞き耳を立ててもいいでしょうか。
「そーゆーとこがにわか言うとるんや! 興味があったら分かるやろ普通!」
「そ、そっちだって東京生まれの東京育ちで、ニセモノの関西人じゃない!」
「生まれと育ちがこっちでも、阪神を愛する気持ちはホンモノですー!」
 私、入って平気なんでしょうか……。
 勇気を出して、れっつごーです!
「失礼します……!」
「あ、きたきた」
 浜愛先輩が笑顔で手を振ってくれました。ちょっと安心です。
 先輩は、横浜DeNAベイスターズのファンだそうです。
「よー!」
 そして、阪神タイガースファンの虎々奈先輩と……
「どちら様?」
 ふわふわで、くるくる髪の女の人。制服姿でも、雰囲気や立ち振る舞いではっきり分かります。
 この人はきっと、お嬢様、です。
「さっき話した新入部員だよ」
「あー、プロ野球のことをまるっきり知らないっていう……」
「美羽璃も大して変わらんやろ」
「い、一緒にしないでもらえるかしら!?」
 ふっとひと息吐いてから、
 ふわふわでくるくるでキラキラの人が私に近付いてきました。
「コホン……初めまして。私は金ヶ代 美羽璃(かねがよ みうり)、2年よ。よろしくどうぞ」
「西宮遥です。よろしくお願いします」
「お近づきの印に、これをどうぞ」
 美羽璃先輩が鞄から取り出したのは、オレンジ色のタオルです。
 ウサギのようなこのキャラクター、
 どこかで見たことがあるような……いや、それよりも。
「あの、会ったばかりでこんな……いいのでしょうか?」
「気にしないで。パパが経営してる会社の関係で、これくらいはいくらでも貰えるんだから」
「そ、そうなのですか?」
「私も、初めて会ったときにもらったよ」
「ウチはその場で捨てたったけどな」
 捨てた!?
「これだから阪神ファンは嫌なのよ……」
「なんやてぇ……?」
「はいはいそこまでー」
 なんでしょう。虎々奈先輩と美羽璃先輩は、
 あまり仲が良くないんでしょうか。
 二人のやり取りが始まると、ドキドキしてしまいます。
「ええと……先輩は、どこの球団がお好きなんですか?」
「もちろん、最強にして向かうところ敵無し、プロ野球界の頂点に君臨する、読売巨人軍よ!」
「3位のくせに」
「そこ! うるさいわよ!」
「巨人、軍……あ、ジャイアンツのことですね」
「あ、あなた……本当にそんなレベルなのね……」
「でも、すごく勉強熱心でいい子だよ」
「ひとまず、12球団の名前は覚えました!」
「ふーん……それで、どこか気に入った球団はあったのかしら?」
「いえ、それがまだ……」
 どのチームも魅力的な気がしてしまって、
 私にはまだ『贔屓』というものがありません。
 それよりも、各球団の選手を覚えることが先かもしれません。
「まあまあ、別に焦ることちゃうよ。ゆっくり探したらええねん」
「それなら、私の王子様が所属する巨人なんてどうかしら?」
「王子様?」
「あら失礼、坂本勇人様のことよ」
 さかもと、はやと……その名前は、ニュースで何度も聞いた気がします。
「走攻守、三拍子揃っているだけでもステキなのに、天は二物を与えてしまったの」
「というと?」
「坂本様はね、とってもイケメンなのよ……!」
「そうでもないやろ」
「ちょっと! 坂本様の悪口は許さないわよ!」
「でも、坂本調子いいよねー。WBCの後であれはスゴいよ」
「ふふ、それほどでも!」
「美羽璃が得意げになることちゃうけどな」
「きーっ! 外野は黙ってて!」
 最初はひやひやしていましたが、
 この二人はひょっとすると、『ケンカするほど仲が良い』
 というやつかもしれません。というか、そうであってください。
「明日からは横浜との3連戦ね。悪いけど、ウチが制させてもらうわ」
「いやいや、そこは譲れないよ。こっちだってAクラスに上がるチャンスなんだから」
「Aクラス……?」
「ああ、Aクラスっちゅーのは、リーグ内の上位3チームのことを言うんや」
「それで、4、5、6位がBクラス。今は巨人が3位で、ウチが4位だから……」
「横浜が勝てば、AとBが入れ替わるんですね」
「そう、そんな感じかな」
「まあ、巨人の3連勝、最低でも勝ち越しは確定事項だけど」
「ふふっ、あとで吠え面かくなよー?」
 美羽璃先輩の強気な発言にも、浜愛先輩は笑顔です。
 浜愛先輩、さすが部長です。
「そもそも、横浜は4番が不調なんでしょ? 確か、まだホームランを1本も打ってないって聞いたわ」
「それなら先週打ったよ」
「えっ?」
「相変わらず他球団に興味のないやっちゃなー……ウチの藤浪が放りこまれてますー」
「そ、そうなの。でも、たった1本出たくらいで……」
「それ言うたら、ご自慢の坂本も1本やろ確か」
「坂本様は打率が高いからいいの! ホームランをたくさん打つのは阿部の仕事よ!」
「あと、マギーも期待通りに活躍してるよね」
「マギー……モデルじゃなくて……ああ、あの新しく獲った人ね」
「マギーはやっぱり、日本の野球を一回経験してるのが強みだと思う」
「そうそう、日本の野球を……え、そうなの?」
「楽天におったの知らんのかい。あーそっか、その目には坂本様しか見えとらんもんなー」
「わ、悪かったわね! とにかくっ! 明日からの試合は負けないんだから!」
 ……先輩にこんな言い方は失礼ですが、
 あたふたとする様子がとても愛らしい人です。
 虎々奈先輩が突っかかる理由、ちょっとだけ分かってしまいます。
「でも、明日の先発菅野なんだよねー、初戦は厳しいかなぁ」
「ふふん、完璧に抑えてあげるから見てなさい」
「ウチはヤクルトかー……あ」
 ふと、虎々奈先輩が窓の外を見ました。
 ぽつぽつと降る雨が、窓ガラスを打っています。
「アイツ、元気にしとるかな……」
「ああ……始業式からまだ一回も出席できてないのよね。またどこか悪くしたの?」
「こないだの休学は、靱帯損傷だっけ……今度はどこをやっちゃったのかな」
 なにやら、先輩方の表情が曇ってしまいました。
 そういえば今日は、朝はとても天気が良かったのに、
 昼過ぎからは突然の雷雨でした。
 帰る頃には止んでくれるといいのですが……。